【解説】プラスチック(PET)を一晩で90%以上分解するスーパー酵素の設計

生命科学関連

プラスチックは、地球上のごみ問題の中で大きな課題です。地球上で一年間に3.6億トンという膨大な量が生産され、その大部分が地中か地上に置き去りにされています。このようなプラスチックの中で最も生産されているのが、私達もよく使っているペットボトルの原料となる、PETという化学物質になります。PETは分解されにくく、リサイクルを行うことが困難ですが、そのようなPETを10時間以内に90%という高い割合で分解することのできるスーパー酵素を作り出すことに研究者たちは成功しました。

(化学系と生物系の論文なので、特に化学系で間違いがあった場合にはすみません。。。)

既知のプラスチック分解酵素の中で、LCCが最強

実は、いくつかのPETを分解できる酵素が5つほどすでに知られていました。そこで、まず、研究者たちは、これらの5つの酵素を比較しました。すると5つのなかで、 leaf-branch compost cutinase (LCC)という酵素(タンパク質)が最も効率よくPETを分解できることがわかりました。ちなみに、leaf-branch compostとは枝葉入の堆肥という意味なので、LCCはそこから発見された酵素だそうです。

ただ、この中で最強のLCC(PET分解酵素)であっても、5日間で分解できるのは30%程度とあまり効率はよくありませんでした。

タンパク質は熱に弱い

ここで少し一般的なお話をします。

私達の体を構成しているタンパク質は、熱に弱い性質を持ちます。例えば、たまごの白身に含まれているリゾチウムというタンパク質は殺菌作用を示します。しかし、たまごをゆでると、リゾチウムの殺菌能力が低下していまいます。そのままの卵に比べて、ゆで卵の状態で保存するとすぐに腐ってしまうのは、このためになります。

今回着目しているLCC(PET分解酵素)もタンパク質ですので、やはり熱に弱い性質がありました。

LCCが熱に弱いのが問題

PETを分解するには、ある程度高温であるほうが望ましいようです。実際に上記の実験においては、65度で実験を行ってします。しかし、LCCはこの環境では3日後には、ほとんど分解する能力を失ってしまっていることがわかりました。これは、65度という高温であるために、LCCの分解能力が低下してしまったと考えられます。

そこで、研究者たちは、LCC(PET分解酵素)が熱に強くなるような工夫を施すことにしました。

工夫その1: LCC(分解酵素)がPETにくっつく部分の改良

まず、研究者たちは、LCCとPETお互いにくっついたときにはどのような構造を取るかを、コンピュターシュミレーションしました。その中で、LCCに含まれる11個のアミノ酸がPETと直接くっついていることを見出しました。LCCがPETを分解する上で、これら11個のアミノ酸が重要そうですので、これらのアミノ酸を別のアミノ酸に変えて、そのPET分解能力について調べてみました。(ちなみに、生物においては20種類のアミノ酸が使われています)

研究者たちは、200種類ほどのLCC改良版を作成しましたが、そのうちの75%のLCCは、PET分解能力を失っており、失敗してしまったと考えられます。しかし、もとのLCCよりも高いPET分解能力を示すLCC改良版(PET分解酵素)を2種類発見することができました。成功したのが1%だけということからも、この研究者たちがいかに努力したかが伺えます。

工夫その2: LCC(分解酵素)の「穴」を埋める工夫

また、研究者たちは、LCCの形を見ている中で、くぼんだ部分があることを発見しました。詳しく調べてみると、このくぼんだ部分にはカルシウムなどがはまり込むことがわかりました。PET分解時にカルシウムを加えることで「穴」を埋めると、LCCがより熱に強くなることが判明しました。ただし、PETを分解する際にカルシウムを加えることで、より費用がかさんでしまい、実用的にあまり望ましくありません。そのため、カルシウムを使わずにLCC(PET分解酵素)の「穴」を埋めることを試みました

生物で使われているアミノ酸20種類のうち、「システイン」というアミノ酸は少し変わった性質を持ちます。他の19種類のアミノ酸とは異なり、システイン同士でがっしりとした結合を作ることができます。研究者たちは、この性質を使って、LCCの穴を埋めることを考えました。実際に試したところ、ややPET分解能力は低下してしまうものの、LCC(PET分解酵素)の熱に対する安定性を飛躍的に改善することに成功しました。

工夫を組み合わせることで、スーパーLCC(分解酵素)を作り出す

以上2つの工夫と細かい工夫をいくつか組み合わせて、LCCの改良版を作り出すことができました。そこで、その能力について検証してみることとしました。

改良版LCCはより熱に強くなったので、反応する時の条件を65度から72度へと変更しました。この条件下で、改良版LCCは12時間で80%以上のPETを分解することができました。一方、オリジナルのLCCは20時間経っても分解効率は50%程度です。

さらに、研究者たちは、改良版LCCの量を最適化することによって、わずか10時間で90%のPETを分解することを達成し、「スーパー」LCC (PET分解酵素)を作り出すことに成功しました。

スーパーLCCは、より素早くPETを捕まえる

スーパーLCCとオリジナルLCCを比較してみると、タンパク質としての「形」はほとんど変化がないことがわかりました。一方、コンピュターシュミレーションによる解析では、オリジナルに比べて、スーパーLCC(PET分解酵素)はより素早くPETを捕まえることができるということがわかりました。

スーパーLCCによる分解コストは、生産コストのわずか4%

最後に、産業化において大事なコストの話になります。(やぎ[運営者]はこのあたりには詳しくありません。。。)

PETを新しく作り出すには、おおよそ1kgあたり25ドルほどかかるようです。一方で、今回のPET分解にかかる費用はこの4%ほどでとてもお安く分解できることも示されています。このように、熱に強いスーパーLCC(PET分解酵素)を作り出すことによって、ペットボトルの材料であるPETを簡単にリサイクルする筋道が立ちました!

参考文献

An engineered PET depolymerase to break down and recycle plastic bottles
Computer-aided engineering produces improvements to an enzyme that breaks down poly(ethylene terephthalate) (PET) into its constituent monomers, which are used ...

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